上司のヒミツと私のウソ
 まるで、誰か違う人間を前にしているようだった。

 目の前で笑い、しゃべっているのはに西森なのに、言葉が干からびた化石のようだ。


 西森は、俺が無言でとがめるのを意にも介さず、終始にこやかな笑顔を浮かべている。

 適当に話を合わせて、如才なくこの場をやり過ごそうとしている気配がはっきり伝わってくる。まるで──。


 そう、ここにいるのは、お互いの本性を知らずに付き合っていたころの、仮面を被った西森そのものだった。


 もういいですかと問いたげに、西森がほほえみながら俺の言葉を待っている。

 いっそう強固な仮面を被りなおした西森になにをいっても通じないとわかって、西森をふたりきりの空間から解放した。


 十二時を過ぎ、午前の業務を終えた社員たちが廊下にあふれ出していた。その中に安田を見つけて声をかける西森を見ながら、無意識にため息をついていた。


──また逆もどりだ。


 西森の意図をめるまでもなかった。

 一昨日の夜のことを、なかったことにしようとしているのだ。
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