上司のヒミツと私のウソ
 安田はコートを着てバッグを肩にさげ、すっかり帰り支度を整えている。時計を見るともう七時前だ。


「人事部に泣き帰ったかとおもったのに」


 私は安田を無視して脚立にのぼり、作業を続けた。


「なにしてんのよ。七時から歓迎会をやるって朝礼でいってたの、聞いてなかったわけ?」

「あっ」


 そういえば、誰かがそんなことをいっていた。


「みんなもうとっくに出たんだから。早くしてよ」


 安田がイライラと急かす。


 私は脚立から降りて靴をはき、上着を羽織った。廊下に並べた段ボール箱をすべて部屋の中に入れ、電灯を消して鍵をかける。

 急いで執務室にもどりコートとバッグを取ってくると、安田がエレベーターホールで待っていた。

 執務室には、企画部のメンバーは誰も残っていなかった。安田が私を呼びに来たことが不思議なくらいだった。


 連れて行かれたのは、駅前にある創作料理のお店だった。

 個室に案内されると企画部のメンバーはすでに全員が席についていて、私と安田が部屋に入ったとたん、それまで賑やかだった話し声がぴたりとやんだ。
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