上司のヒミツと私のウソ
「やっと主役が来たか」


 むっつりした表情でそういったのは、谷部長だった。その隣で矢神が空々しい笑顔を浮かべ、席につくよう促した。

 テーブルには、人数分のグラスに黄金色の液体が注がれていた。さすがに乾杯は待ってくれていたようだ。


 私は安田と並んで空いている席についた。


 企画部は全員で十八人。そのうち宣伝企画課は男性社員が矢神を入れて四人、女性社員は私と安田の二人だ。

 ほかに、企画部の女性は四人いる。朝礼のときもおもったけれど、きれいなひとばかりだ。


 乾杯のグラスを掲げながら、私は恥ずかしくてうつむいていた。


 おろしたてのスーツは埃まみれだった。

 髪はボサボサだし、化粧直しもしていない。

 一日中狭い倉庫の中で力仕事をしていて、うっすら汗もかいている。


 会話が再開された。


 温かい料理がつぎつぎと運ばれてくる。笑い声が絶え間なく起こる。

 右隣の安田も、左隣の男性社員も、私に話しかけてこない。
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