上司のヒミツと私のウソ
「大丈夫ですから、先に行ってください」

「ごまかしてもだめだ」


 西森はわかっていない。


「半年前ならともかく、そんな上っ面だけの笑顔で騙されるとおもってるのか。ふざけんな」


 もどかしさに語気が荒くなった。

 西森の顔からすっと笑みが消え、代わりに頑固な意志を宿した目がみつけてきた。


「だったら、どうして私にかまうんですか。とっくに別れたんだから、もう関係ないでしょ」


 切りこむような言葉で拒絶したあと、西森は目をそらして沈黙した。

 若い男女のグループが、大声で笑いながら後ろを通り過ぎていった。鮮やかなネオンに彩られた、大通りの喧噪に巻きこまれて消えていく。


「今さらもとにもどれるとおもうか?」


 一瞬、暗がりでうつむいている西森の顔がこわばった。困惑を隠すように唇を噛み、弱々しく笑う。
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