上司のヒミツと私のウソ
 部屋を見わたしたとたん、どこかで見たような、どこかで感じたような印象を受けたけれど、すぐには思い出せない。

 リビングのベランダに通じる窓を開けると、涼しい風がカーテンを膨らませて部屋に入ってきた。

 そのとき、ああそうかと思い出した。

 美砂子ちゃんの家の雰囲気に似ているのだ。おだやかで懐かしくて、いつもほっとするあの感じだ。


 このいくつかの古い家具を、矢神が大切に扱っていることが伝わってくる。

 違和感を感じさせないように置き場所に気を配っているのがわかるし、木材を同系色に揃えたり、カーテンやラグの色も家具に合わせて選んである。

 だから部屋全体が温かくなじんでいて心地いいのだ。


 私はシンプルなデザインのチョコレート色のソファに腰かけ、熱をはかってみた。三十六度七分まで下がっている。

 理由もなく長居するのがためらわれた。

 寝室にもどり丁寧にベッドを整え、着替えをすませた。
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