上司のヒミツと私のウソ
 足がもつれて転びそうになり、廊下の壁に手をついてかろうじて体を支えた。

 「ご苦労さまでしたぁ」という明るい声がドアの向こうから聞こえ、直後、ドアが冷たい音をたてて閉まった。





 矢神のマンションを出たあと、どうやってアパートにもどったのかよく覚えていない。部屋に帰り着くなりベッドにもぐりこんで、泣くだけ泣いた。


 翌日、私はいつもと同じように普通にふるまうことだけを考えて出社した。

 一日休んだおかげで熱は微熱程度にまで下がっていたけれど、泣きながら寝たせいで目が腫れてしまった。

 家を出る直前までタオルで目を冷やし、いつもより厚塗りのアイメイクでごまかして出社した。


 誰にもばれなかったのに、安田には簡単にばれた。


 昼休みに問い詰められ、矢神のことはもう終わったことにするといったら、安田はいつになく真剣な顔で「どうして」としつこく聞いてきた。
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