上司のヒミツと私のウソ
「だからそうしてる。『RED』の企画だって手を抜いてるつもりないし、私にできることはなんでもやってるよ」

「仕事のことをいってるんじゃない」

 安田はナイフとフォークを置き、食事を中断して私を見た。


「仕事でいくら認められたって、女として意識してもらえなかったら話になんないじゃん。西森はそこんとこでいつも逃げてるんだよ」


 有里という女性の顔や全身が浮かび上がった。

 女らしさを最大限にアピールした、流行のメイクに髪型にファッション。光るような肌、澄んだ瞳。立っているだけで若さが匂いたつようだった。

 私はといえば、三十路に突入したなんのとり柄もないOLで、流行のファッションにはうといし、性格はひねくれてるし煙草は吸うし、女らしさのかけらもない。

 比べる価値もないとおもう。なのに、矢神があの子を選んだ理由を、ずっと頭の中で探している。


 結局、私は心の底でずっと、わずかな望みにすがりついていたのだ。


 矢神が彩夏さんのことを忘れることができたら、いつかは──。

 自分の心の見苦しさに、嫌気がさした。
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