上司のヒミツと私のウソ
「恥ずかしくても見てもらうの。自分のこと、なんでもいいから」

 安田の、なにもかも見透かすような目から逃れるように、顔をそむけた。


 頭の中で再生される有里のイメージを止めて、真っ黒に塗りつぶした。

 胸の底に粘つくような不快感が残った。


 笑おうとしてもうまくいかない。

 こわばった頬が頑なに抵抗して引きつり、怒ったような顔になった。


「安田には、私の気持ちは一生わからないとおもう」


 おもわず口をついて出たセリフに、私自身が息をのんだ。安田の顔から色が引いていくのが、手にとるようにわかった。


「あそ。わかった。あんたはそうやって、一生他人に背中を向けて生きていくんだね。いいんじゃない、それでも」


 それから私たちはひとことも口をきかず、重くのしかかる沈黙のもとで食事を終えた。
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