上司のヒミツと私のウソ
「だから、欲しいとおもう気持ちを消すようにしてた。そうすれば……最初から期待さえしなければ、がっかりしなくてすむから」

 安田の顔からいぶかる気配は消え、前に見たのと同じような、真剣な目つきになっていた。


「じゃあ」


 私の顔に浮かぶどんな感情も見逃すまいとするように、痛いほどまっすぐに見つめてくる。


「西森が今いちばん欲しいものって、矢神課長なんだ」


 逃げることをゆるさない強い視線に、追いつめられる。

 私は無言でうなずいた。


「努力しても手に入らないとおもってるんだ。ま、いいけどね。私には関係ないし」


 安田はあくまで無表情のまま、放り捨てるようにいって、そっぽを向く。

 ウェイターが料理を運んできた。二人でだまって小皿に取り分ける。


「安田は好きな人いないの」


 今度は私が沈黙を避けた。

 安田は少し驚いたように顔をあげたけれど、平然として「いるよ」といった。
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