上司のヒミツと私のウソ
 私はふたたび雑巾がけに集中しようとしたけれど、安田が突然コートを脱ぎだした。脱いだコートとバッグを重ねてパイプ椅子の上に置き、セーターの袖をまくる。


「なにしてんの」


「手伝うのよ。見ればわかるでしょ」

「なんで?」

「あんたひとりじゃ何日かかるかわからない」

「ほっといてよ。これは私と矢神の問題なんだから」


「あのさぁ」


 両手を腰にあてて、安田は呆れ返ったような複雑そうな顔で私を見上げた。


「矢神課長は、別にあんたに嫌がらせしたくてこの仕事を頼んだわけじゃないとおもうけど?」

「は? じゃあどういう理由よ」


 これが嫌がらせじゃなくてなんだというのだ。


「そんなこと私が知るわけないじゃん。でも、矢神課長は仕事に私情を挟むようなひとじゃないから」
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