上司のヒミツと私のウソ
 書棚に入らない大きめの販促物は、奥の一か所にまとめて上から白布をかけてある。あとは資料を分類して書棚に詰めていくだけだ。


 高校時代の矢神はそんなに変わっていたのだろうか。


 倉庫の片隅に置いてある事務机で資料をチェックしながら、私は無意識に矢神のことを考えていた。

 幸か不幸か人事部にいたので、彼のデータは頭に入っている。最終学歴はK大医学部だ。まさにエリートの王道。

 医学部を受けたということは、やはり当初は医者を目指していたのだろうか。それが途中で挫折して、自棄になり、人生に絶望して……あんな最悪の性格になってしまったとか?

 ううん違う。律子さんもマスターも、高校時代の矢神がエリートではないといっていた。


 作業の手が止まっていることに気づき、私は溜息をついた。


 高校時代の矢神がどうだろうと、私には関係ないことだ。


 それなのに、気になってしかたがないのはどういうことだろう。


 のろのろと椅子から立ち上がり、私は倉庫の狭い空間をゆっくりと一周した。
< 72 / 663 >

この作品をシェア

pagetop