202号室の、お兄さん☆【完】
「俺は、みかども……鳴海も大切だ。ずっとずっと大切だから」
そう言われ、頬を触られた手は、煙草の匂いがしました。
苦く、て、
あ、あまり好きな匂いではない、
大人な香り。
「何も結婚しろとは言わねえから、支えてやって欲しい」
わ、私は、
寝息を立てて、子どもの様に縋るお兄さんが、
愛しくて、守ってあげたくて、
支えたくて、そばに居たくて、
だから、
ゆっくり頷きました。
「――岳理さんはズルい人、ですね」
私も傷つかないで側にずっと居られるならば、岳理さんの様な選択をしたかもしれません。
それでも、岳理さんに伝えられる言葉は何もありませんでした。
あの日、階段に忘れていった私の気持ちは、
誰にも拾われず、私も拾わず、風化してしまえば良いんです。
「そろそろ、送るけど?」
私は首を振りました。
今は岳理さんに甘えたくなくて。
膝に感じる体温と、
頬を掠めた温もり。
私にはどちらも大切すぎて、
失いたくなかったから。
「玄理さんのバイクに乗って帰りたいです」
そう伝えるのが、やっとでした。