君が好きだから嘘をつく
「ごめんね!待たせちゃったね」

「・・・いや、さっき着いたばっかりだよ。とりあえず乗りなよ」

「うん!」

何だかジッと見られたので、急いで助手席の方にまわってドアを開ける。
シートに座って健吾を見ると、タバコに火をつけている。

「ごめん、1本吸わせて」

「どうぞ」

そのまま健吾は空いた運転席の窓の向こうを見ながらタバコを吸い続けている。
私は気になってこっちを見ない健吾を何度か見る。

あれ・・・何か機嫌悪い?ちょっと待たせ過ぎちゃったかな・・・

「健吾・・ごめんね」

「ん?・・何が」

今まで窓の向こうを見ていた瞳を、こっちに向けてくれた。

「遅くなっちゃったから。すごく待たせちゃったよね、ごめん」

「いや、そんなことないよ。まだ2次会終わってないなら、最後まで行ってくればいいのに」

「え、もう十分だよ。ちゃんと新郎新婦にも友達にも挨拶できたからいいの。ね、帰ろう?」

ちょっと甘えた声を出してみた。
そんな私を健吾は一瞬ジッっと見た後、タバコを消して前を見た。

「じゃ、帰るか」

右手でハンドルを握り、左手でシフトレバーを引いた。
少し車が前に進んだところで、ふと止まった。

「そうだ、これさっき買ったんだ」

後ろのシートからカサカサと音をさせて取り出し、私の手の上に乗せてきた。それは冷えたミネラルウォーターだった。隣で健吾はコーヒーのプルトップを開けて飲み始めた。

「ありがとう!買ってきてくれたの?」

「タバコが切れたからさ。コーヒーのほうがいいか?楓の分もあるよ」

そう言ってまた後ろから取り出そうとしたので止めた。

「大丈夫!お酒飲んでいるし、とりあえずこれもらうね」

「じゃあ、コーヒー飲みたくなったら飲んで」

「ありがとう」

「じゃあ~行くか」

そして駐車場から出て、帰り道を走った。
少し無言が続いて、健吾の顔を気づかれないようにチラチラ見る。前を見たまま運転する健吾。
今まで一緒にドライブして無言になったことは何度もあるけど、今日みたいな空気じゃなかったし。
電話で話した時は機嫌悪くなかったんだけどな~。
視線のやり場も少し困って健吾がくれたミネラルウォーターのキャップを開けて口にすると、隣で健吾が頭をガシガシ掻いた。

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