甘き死の花、愛しき絶望
 今まで、白髪の少年と話をするために、意識を外に向けていた黒髪の少年……加藤は、ふ……っと自身内側に意識を戻す。


『死ねないかもしれない』なんて。

 自分で考えた。

 そして、自分の口の中でつぶやいた言葉に、自家中毒を起こしてしまったのだ。

 死ねないかもしれない死ねないかもしれない死ねないかもしれない死ねないかもしれない……

 ビルから飛び降りた直後のように。

 意識が内側に沈んで、しまうのは、時間の問題だった。

 それを見て、白髪の少年は、彼を自分の腕の中に誘い、抱きしめた。

「何をやっても、死ねないのは、辛いよね?
 すぐに治っても、肌が傷つくのは、痛いよね。
 自分の皮膚の下を、虫が這いまわるように動き回るカフンの感覚で壊れるヤツも多いんだ。
 花葬者になって、どれだけ経ったの?
 辛かったね。苦しかったよね?
 だけど、もうおしまい。
 僕は、君を終わらせるために来たんだ」

「でも……オレは死ねない」

「そうだね。
 ……だから、僕が君を殺すんだ」

 そう言って、白髪の少年は、加藤の唇に自分の唇を押し当てた。

 皆が見ている、その前で。

 1、2、3、4、5

 ゆっくり数えて五秒間。

 白髪の少年は、舌を使って、唾液の交換をし、呑み込ませ。

 唇を花葬者から離した。

 その途端。

 まるで、ずざざざっと、いう音が聞こえるかと思うぐらい、急に、極端に、早く。

 まだ、お互いの口から、唾液の銀の糸が切れないうちだと言うのに。

 花葬者の肌に、花の形の痣が出現し、その身を覆った。
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