甘き死の花、愛しき絶望
 あっという間に、桜の花びら型の青黒い痣に覆われてゆく。

 自分の皮膚の下を、無数に這いまわるゴキブリに似た虫に犯され、神経と理性を逆なでしてゆく感覚と。

 醜く、青黒く変色してゆく自分の手を見て、花葬者の少年は、げらげらと笑った。

「オレは死ぬ! 死ぬ! 死ぬ! 今度こそ、死ねる!」

 死が、自分の消滅が、なんでそんなに嬉しいのか。

 花葬者の少年は、顔に、満面の笑みを浮かべて、片手を天に突き上げた。


 げらげらげら!


 一般人の野次馬達が、怖がったのは、加藤少年の死を望むセリフか。

 それとも、狂気にあてられた、笑い声なのか。

 恐怖に引きつりお互いの顔を見合わせるだけの人々に、白髪の少年は、叫んだ。

「力の強い花葬者が死にます!
 国の決めた、半径五十メートル以上は、安全なんて基準は当てはまらないかもしれません。
 巻き添え食って、死にたく無い方々は、もっと遠くに逃げてください!」


 二人の少年を取り囲む群衆たちが、またどわっと下がり、繁華街のド真ん中に、無人の空間を広げた。

 その様子に白髪の少年は、深々とため息をつくと、後ろ向きのまま、十歩ほど下がり、静かに言った。

「さようなら、加藤君」

「おう、ありがとよ! 死神野郎!」

 やけにキレイに黒髪の少年が笑ったその途端だった。
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