甘き死の花、愛しき絶望
 やがて、少年の胸の上で紅色の花を咲かせていた炎は、彼の全身を呑み込んだかと思うと、少年の絶叫が唐突に終わった。

 辺りには、ヒトがひしめいているのに、誰もしゃべらない。

 息を吸うのさえ、忘れるようなそんな急に訪れた静寂の中。

 満開の薔薇のように咲いていた、少年の胸の上に咲く花が、ぽしゅっと、小さな音を立てて、真上にはじけ飛んだ。

 地上の、花の弾けた後には少年の姿や、あとかたは何もなく。

 ただ、何枚もの巨大な炎の花びらだけが、一瞬。

 高々と、ビルに囲まれた黄昏色の空に舞い上がり……自由落下で落ちてゆく。


 ひらり ふわり

 ひらり ふわり


 ほとんど風に流されず。

 真下にゆっくり堕ちてゆく花弁は灼熱の炎の塊で。

 それに触ったモノは、みな、焼け、溶ける。


 じゅゅゅう


 花弁の多くは、道路のアスファルトの上に堕ち。

 一瞬でアスファルトに含まれているコールタールが溶けて、歪んだ。

 道路工事現場のような、独特の臭いが、辺りに満ちて、足元が粘る。


 じゅう ずしっ! ごっ!


 花弁の中には、街灯や、信号機の支柱に触れるものもあり。

 そんなものは道を照らす街灯や、信号機本体を支えきれず、簡単に地面に落ちた。

 もちろん。

 こんな花弁が、人間にかすりでもしたら、大けがどころでは、済まされない。

 びっくりするほど、花びらが多く、野次馬たちは、自分に危害が振って来ないように、不安げに空を見上げてた。

 と。
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