【短編】聖なる夜の秘恋
曲もラジオも流れていないしんとした車内。
彼とふたりきりなのに、心には重い石がのっかったようで何も言えない。
なのに、能天気にキラキラと光る道のイルミネーションだけが静かに車窓を流れていく。
魔法にかかったみたいと浮かれていた先程までが、切ないくらい懐かしい。
私は膝の上にのせた箱を、鼻の奥がツンとするのを感じながら、ぎゅっと力をこめて抱いた。
運転している彼の横顔を時々盗み見るけれど、おどおどしてしまって見ていられない。
対向車のヘッドライトで時折照らされる彼の顔は、今日もかっこいい。
シャープな目もとも、高い鼻も、真一文字に結んだ唇も、彼はいつもクールだ。
細身のスーツをいつもスマートに着こなして、袖口からはさり気なく時計をのぞかせて。
そんなひとつひとつに、私はより一層ドキドキさせられる。
どこからどう見ても、先生は素敵な大人の男性。
声を荒げることもなく、寧ろ無口なほう。
なのに、そんな先生が怒るところなんて初めて見た。