甘い恋の始め方
「久我君、わざわざ婚約者の出迎えか」

受付嬢がすぐ近くにいるため、悠也とは呼ばない。篠原はふたりきりの時以外は「久我君」と呼んでいる。

「ええ。理子、社長とは会っているね」

「は――」
「契約書はまだ出来上がっていないのか?」

そこで篠原が話をさえぎり、悠也に仕事の話を持ちかけた。

「グローバル社の契約書なら、さきほど秘書にもたせましたが」

そこで悠也の執務室の前まで来た。副社長室は社長室の手前の部屋。

理子は会釈してその先を行く社長を見送る。

「さあ、入って」

悠也に促されて副社長室へ入る。

「社長に何か言われた?」

「えっ? そんなことないです。どうしてそう思うんですか?」

鋭い悠也に理子は首を横に振ってこたえる。

「なんとなく雰囲気がおかしかった」

「それはわが社の社長ですから。緊張もします」

「理解があり、良い男だからそんなに緊張しなくても大丈夫」

(理解があり、良い男……私には悠也さんを守る過保護なお兄さんに見えるわ)
< 236 / 257 >

この作品をシェア

pagetop