いとしいあなたに幸福を
「…周?」

「いや…何でもないよ。京のことなら咲良もいるから大丈夫だ。もう赤ん坊でもないんだしな」

「……一つ、訊いてもいいか?」

「うん?」

「お前は愛梨のことを…どう思ってるんだ?」

今までは、確かめようとも思わなかった。

周の、愛梨に対する気持ち。

無論悪感情を持っているとは思いもしないし、初対面で縁談が決まっていると言っていた人間にわざわざ訊くことでもない。

しかし、もしも周が愛梨を好いていてくれたとしたら――

「…俺が領主の息子じゃなくて、婚約者も息子もいなかったとしたら……好きになってたと思うよ」

「………そうか」

その言葉が本心か、俺に気を遣ってのことかは推し量りかねたけれど。

愛梨と同様に、お前が心を押し殺しているかもしれないことは覚えておこう。

「まあ、だとしても渡さないけどな」

「うん、だろうと思った」

もし誰も傷付かずに済む未来があったのなら、良かったのに。





.
< 199 / 245 >

この作品をシェア

pagetop