【短編集】あいとしあわせを祈るうた
クリスマス・イブの夜。
PM9:30。
明日は土曜日。
この時間はまだ宵の口だ。
酔いのせいで寒さはあまり感じない。
ネオンまたたく繁華街を年下の男と連れ立って歩く。
ここは、おしゃれな街じゃない。
ドラッグストア、大きな電器屋、チェーンの靴屋。
ハンバーガー・ショップ。
サンタの格好してティッシュ配るお兄さん。
群れをなして大声で騒ぐ学生。
サラリーマンの酔っ払い。
人を押しのけるようにして、歩かないと前へ進めない雑多な街だ。
どこの店でもクリスマスの飾りをして、商魂の逞しさを見せつけている。
人の流れに逆らって、
駅の方角へと歩く私達。
杉本君が私のブーツの足元を気にしてくれているのが分かる。
歩調を合わせてくれているのも。
おろしたてのファーの付いた黒いショート・ブーツは、ヒールが5センチある。
一目惚れして買ってしまったけれど、ヒールを履き慣れていない私は、人から見たら、なんだかフラフラ歩いているように見えるのかもしれない。
「あ〜また『ハッピークリスマス』!
いい歌だけど、この時期本当にしつこいよね〜
あと、『ラストクリスマス』!」
私が力んで言うのに、杉本君はにっこりと笑う。