月の絆~最初で最後の運命のあなた~
(血の匂い?)
何一つ、吸血鬼流の儀式は始まっていなかった。
なのに、マリアからは血の匂いが漂ってくる。
狼呀は詳しく調べようと鼻に意識を集中させ、すぐに彼女の左腕からだと理解した。
匂いの正体を知りたくて、左腕に触れ嫌がる素振りがないか様子を見るが、マリアは顔を背けている。
それを了承と受けとり、ゆっくりと痛みがないように袖を捲り、見えてきた光景に息をのんだ。
「なぜ……こんなことを」
マリアの腕にはえぐったような傷が無数にあり、血が固まっていた。明らかに治療した形跡はなく、古い傷も含めれば腕全体に痕がある。
「これだけが……あたしのストレス発散法なの」
彼女は疲れきったような顔をして言った。
「こんなことは、ダメだ」
狼呀は無数の傷一つ一つに、小さなキスの雨を降らせた。
抵抗されたが、力で狼呀に敵うはずもない。
今は、以前にも増して保護本能に火がついている。