いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「この馬鹿息子と駄目亭主はな?夜逃げみたいにある日突然、行方眩ましてんだ。お陰様でこっちがどんだけ心配したか、ちょっとは思い知れよ」
仄は笑いながら風弓の首に腕を巻き付けて、ぐりぐりと頭に拳を押し付けた。
「……ごめん、母ちゃん。それでも姉ちゃんに本当のこと、黙っててくれて有難う」
「で、その晴は?聞いた話じゃ、十年分くらい記憶が遡ったらしいけど…再発はしてない?」
一瞬だけ仄の声に不安げな色が宿ったのにすぐ気付いた風弓が、小さく首を振って見せる。
「大丈夫、記憶だけだ。今は陸のお母さん…愛梨さんが一緒だよ」
「そっか。しっかし陸が領主様の息子だったとはねえ。じゃ、晴が陸のお嫁に行ったら玉の輿だ」
「えっ…あ、はい」
元々娘との仲を気に掛けてくれる言動の多かった仄は、顔を赤くした陸に向かってにやにやと笑って見せた。
「姉ちゃんは嫁になんかやんねえ」
「ふゆ、あんたも相変わらずだな」
二人の遣り取りに苦笑しつつ、陸は京のほうへ振り返る。
「えっと…兄さん、こちらは天地先生だよ。俺の怪我を何度も診てくださったんだ」
四年振りの母子の再会を嬉しそうに見つめていた天地は、陸の言葉を受けて京に向き直ると翡翠色の眼を細めて微笑んだ。
「初めまして、陸の兄の京です。その折では弟が大変お世話になりました」
「夕夏と賢夜の保護者の天地と申します、お逢い出来て光栄です。私のほうこそ子供たちのこと…特に賢夜の面倒を見て頂いて、本当に有難うございました」
賢夜の名を口にした瞬間、ふと天地の笑顔に翳りが差す。
「いえ…貴方や夕夏ちゃんたちには弟を何度も助けて頂いたのに、僕には彼にこれくらいしかしてあげられなくて……」
仄は笑いながら風弓の首に腕を巻き付けて、ぐりぐりと頭に拳を押し付けた。
「……ごめん、母ちゃん。それでも姉ちゃんに本当のこと、黙っててくれて有難う」
「で、その晴は?聞いた話じゃ、十年分くらい記憶が遡ったらしいけど…再発はしてない?」
一瞬だけ仄の声に不安げな色が宿ったのにすぐ気付いた風弓が、小さく首を振って見せる。
「大丈夫、記憶だけだ。今は陸のお母さん…愛梨さんが一緒だよ」
「そっか。しっかし陸が領主様の息子だったとはねえ。じゃ、晴が陸のお嫁に行ったら玉の輿だ」
「えっ…あ、はい」
元々娘との仲を気に掛けてくれる言動の多かった仄は、顔を赤くした陸に向かってにやにやと笑って見せた。
「姉ちゃんは嫁になんかやんねえ」
「ふゆ、あんたも相変わらずだな」
二人の遣り取りに苦笑しつつ、陸は京のほうへ振り返る。
「えっと…兄さん、こちらは天地先生だよ。俺の怪我を何度も診てくださったんだ」
四年振りの母子の再会を嬉しそうに見つめていた天地は、陸の言葉を受けて京に向き直ると翡翠色の眼を細めて微笑んだ。
「初めまして、陸の兄の京です。その折では弟が大変お世話になりました」
「夕夏と賢夜の保護者の天地と申します、お逢い出来て光栄です。私のほうこそ子供たちのこと…特に賢夜の面倒を見て頂いて、本当に有難うございました」
賢夜の名を口にした瞬間、ふと天地の笑顔に翳りが差す。
「いえ…貴方や夕夏ちゃんたちには弟を何度も助けて頂いたのに、僕には彼にこれくらいしかしてあげられなくて……」