いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「この馬鹿息子と駄目亭主はな?夜逃げみたいにある日突然、行方眩ましてんだ。お陰様でこっちがどんだけ心配したか、ちょっとは思い知れよ」

仄は笑いながら風弓の首に腕を巻き付けて、ぐりぐりと頭に拳を押し付けた。

「……ごめん、母ちゃん。それでも姉ちゃんに本当のこと、黙っててくれて有難う」

「で、その晴は?聞いた話じゃ、十年分くらい記憶が遡ったらしいけど…再発はしてない?」

一瞬だけ仄の声に不安げな色が宿ったのにすぐ気付いた風弓が、小さく首を振って見せる。

「大丈夫、記憶だけだ。今は陸のお母さん…愛梨さんが一緒だよ」

「そっか。しっかし陸が領主様の息子だったとはねえ。じゃ、晴が陸のお嫁に行ったら玉の輿だ」

「えっ…あ、はい」

元々娘との仲を気に掛けてくれる言動の多かった仄は、顔を赤くした陸に向かってにやにやと笑って見せた。

「姉ちゃんは嫁になんかやんねえ」

「ふゆ、あんたも相変わらずだな」

二人の遣り取りに苦笑しつつ、陸は京のほうへ振り返る。

「えっと…兄さん、こちらは天地先生だよ。俺の怪我を何度も診てくださったんだ」

四年振りの母子の再会を嬉しそうに見つめていた天地は、陸の言葉を受けて京に向き直ると翡翠色の眼を細めて微笑んだ。

「初めまして、陸の兄の京です。その折では弟が大変お世話になりました」

「夕夏と賢夜の保護者の天地と申します、お逢い出来て光栄です。私のほうこそ子供たちのこと…特に賢夜の面倒を見て頂いて、本当に有難うございました」

賢夜の名を口にした瞬間、ふと天地の笑顔に翳りが差す。

「いえ…貴方や夕夏ちゃんたちには弟を何度も助けて頂いたのに、僕には彼にこれくらいしかしてあげられなくて……」
< 245 / 331 >

この作品をシェア

pagetop