いとしいこどもたちに祝福を【後編】
『…はて?わしが邸の者から聞いた話では依然、意識が戻られないとのことだったが』

輝琉の探るような視線に、京は表情を変えず首を振って見せる。

『いえ?どうやら話に尾鰭(おひれ)がついて大袈裟なまま輝琉様へ伝わってしまわれたようですね。無用なご心配をお掛け致しまして申し訳ありません』

輝琉と占部の対応をした者は、そんなことまで口を滑らせてしまったのか。

陸はそのことに憤りを覚えつつ、同じ気持ちであろう兄の心中を案じた。

『何分、父も身体が頑丈なことだけが取り柄でしたから、使用人たちも動揺してしまったようで…』

『いや、いや。思ったより病状が軽いならば幸いだ。それにしても八ヶ国の領主の中でも年若い霊奈殿が倒れられるとは…明日は我が身だな、のう占部殿』

輝琉に話題を振られた途端、それまで大人しかった占部が嬉々として雄弁に語り出した。

『いやはや、私も重々気を付けねば。しかし輝琉様、霊奈殿の勤勉さには感服致します。あのような精勤振りは見習おうにも些か致しかねます。彼のような人物を義弟に持てたことは、正に光栄の至りです』

『そうだのう、霊奈殿はほんに働き者じゃて。これを機に少しは休み上手になれば、そなたも安心であろうな』

『いえ…他国の領主様方に比べれば父はまだまだ未熟者でございます』

『何、謙遜せずとも良いぞ?京はほんに優秀な両親に似て賢明な令嗣(れいし)だ』

占部が両親、と口にした瞬間、ほんの僅かに兄が身震いした。

(…兄さん?)

『…ところで、そなたの異腹の弟御はどうした?先日は留守とのことだったが、今日こそはそなたと揃って相見(あいまみ)えるかと期待していたのだが』

(!)

輝琉の口から自分の話題が出たことに、思わずどきりとする。

すると京は、大袈裟な程に残念そうに溜め息を落とした。
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