いとしいこどもたちに祝福を【後編】
『弟には、父の看病をさせております。勿論、輝琉様に失礼とは存じておりましたが…四年振りに戻った弟は父に甘える時間さえ十分に持てなかったため、父から引き離すのは心苦しくて私にはとてもとても…』

確かについ先刻まで、陸は愛梨と共に父の付き添いをしていたので嘘ではないのだが。

(兄さん、それちょっとやり過ぎじゃないかな…)

『だが輝琉様から直々に頂いた拝謁の機会だぞ?そのような有難いご厚意を無下にするなど、賢(さか)しいお前らしくもない…!』

透かさず文句を捲し立てる占部に、京は自嘲気味に首を振って見せた。

『我ながら甘い兄だとは自覚しております。輝琉様、伯父上、私が至らぬばかりに大変申し訳ございません』

『あのような下賎の小娘から生まれた子など、本来なら霊奈家の姓を名乗らせるのも厚かましいものを!奴は自分を何様だと思っているのか!!』

ああ出た、占部一家お得意の身分差別発言。

流石の占部も普段は公然の場でのあからさまな批判は控えているのだが、今は頭に血が上っているのかすっかり地が出てしまっている。

『…いくら伯父上のお言葉と言えど、母や弟を愚弄なさるのは私とてお聞き苦しいですよ』

笑顔で凄む京に、占部は心底憐れむような声を上げた。

『京…!何も今日くらい、傍におらぬ父に気を遣わずとも良いのだぞ?!お前の母は、我が妹・都唯一人であろう!?奴らを無理をして母や弟と呼ぶ必要もあるまい…!!』

あろうことか占部は、京は周に遠慮して陸や愛梨を無理に家族だと呼んでいると思い込んでいるらしい。

“そうでなければ京がお前などを弟と呼ぶ筈があるまい!”と――陸は幼い頃この占部からそう怒鳴られたことがある。

泣きながら両親にその真偽を確かめたところそんなことはないと宥められて心底安堵したのだが、心の何処かでその言葉が引っ掛かっていたからこそ、月虹で兄にあんな暴言を吐いてしまったのかも知れない。

しかし京の率直な気持ちはあのとき確認出来たし、冷静な兄が占部の挑発に乗る筈が――

『伯父上!!』

だが次の瞬間、声を荒げた兄の表情からは笑顔が消えていた。
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