いとしいこどもたちに祝福を【後編】
「――才臥」
浮かない面立ちで廊下を歩く男性の背に、抑揚のない声が掛けられる。
男性が振り向いた先では、この施設の所長を務める女性が歩み寄って来ていた。
「如月…」
俯きがちに名を呼ぶと、如月は強引に彼の胸倉へ掴み掛かるように手を伸ばした。
「あれに余計なことを吹き込もうとするのは止せ」
「…解ってる。あの子に対する言動が総て監視されてることもね」
「理解しているなら、要らぬ疑いを招くような真似はするな。無用なことで架々見様の御機嫌を損ねたくない」
「………」
架々見という名を耳にして、男性はゆっくりと顔を上げた。
「才臥。まさか私との盟約、忘れた訳ではないだろう?」
「…ああ、覚えてる」
苦笑する男性を嘲笑うように、如月が溜め息を落とす。
「なら私を困らせないでくれ。私はお前の手腕を見込んでいるんだよ、才臥……いや、鷹勢(たかせ)」
不意に囁かれた名に男性は、どきりとした。
しかし、それを表面には現さずに小さく首を振って見せる。
「鷹勢じゃない。今は才臥」
「…家族は捨てて来た筈だろう?才臥は死んだのだから」
浮かない面立ちで廊下を歩く男性の背に、抑揚のない声が掛けられる。
男性が振り向いた先では、この施設の所長を務める女性が歩み寄って来ていた。
「如月…」
俯きがちに名を呼ぶと、如月は強引に彼の胸倉へ掴み掛かるように手を伸ばした。
「あれに余計なことを吹き込もうとするのは止せ」
「…解ってる。あの子に対する言動が総て監視されてることもね」
「理解しているなら、要らぬ疑いを招くような真似はするな。無用なことで架々見様の御機嫌を損ねたくない」
「………」
架々見という名を耳にして、男性はゆっくりと顔を上げた。
「才臥。まさか私との盟約、忘れた訳ではないだろう?」
「…ああ、覚えてる」
苦笑する男性を嘲笑うように、如月が溜め息を落とす。
「なら私を困らせないでくれ。私はお前の手腕を見込んでいるんだよ、才臥……いや、鷹勢(たかせ)」
不意に囁かれた名に男性は、どきりとした。
しかし、それを表面には現さずに小さく首を振って見せる。
「鷹勢じゃない。今は才臥」
「…家族は捨てて来た筈だろう?才臥は死んだのだから」