三十路で初恋、仕切り直します。

「なんとなく、いずれうちの法資と泰菜ちゃんはそういうことになるんじゃないかなと昔から薄々思っていたからねえ。なあ秀ちゃん」
「やっぱ桃さんもそう思ってたか」


二人の父親が頷き合う。


「20代のうちに一緒にならなかったから、思い過ごしかとも思ったんだけどね」
「先週泰菜がこっちにお邪魔したって聞いてから、そういうことなんだろなとは思ってたんだよ」



法資と恋人同士になれてからまだ一週間も経たないというのに、まだ半分夢見気分の泰菜より父親たちの方がよほど二人の交際を納得しているような態度だった。

子供のときに自覚はなかったけれど、周りから見るとそんなに自分たちは意識し合っているように見えてたのだろうかと、面映いようななんともいえない複雑な気持ちになる。


「まあ遊び呆けてないで身を固めてくれるってなら有難いことだよ。相手が泰菜ちゃんなら言うことないし」
「桃さん、そりゃ買い被りだよ。泰菜はしっかりしてるようで、結構抜けてるとこもあるからな」

「あ、あの」


父親たちが二人を置いてどんどん話を進めていくのがいたたまれなくて思わず間に入ってしまった。


「その、結婚って言っても、そんな直ぐのことじゃないというか、まだどうなるかまだ分からないというか」
「お。法資振られてるぞ」

冷やかすような自分の父親の言葉を「うるさい」と一蹴すると、法資は「真剣なつもりなのは俺だけなのか」と冷ややかな顔で訊いてくる。


ふたりきりのときでさえ、素直に思いを口にするのがまだまだ恥ずかしくてままならないというのに、それを父親たちの前で言えというのはあまりにもハードルが高すぎる。「ちょっと、そういうのはまた後でにしよう」とお茶を濁した。

法資の父親はいつも強気な次男坊のいつにない劣勢が面白いのか、またからかってきた。


「法資、あまり無理にぐいぐい迫ると泰菜ちゃんに逃げられるぞ」
「いいから親父は黙っててくれよ」
「あ、あのお父さんたち、そのわたしたちは」

「……まあいい大人なんだし。後は二人のいいようにやってくれよ」


秀作の一言で、その場が納まった。


昼間から飲んでいたらしく、秀作はカウンターの上の飲み差しのビール瓶を手に取ると立ち上がった。法資が慌てて自分の父親からグラスを受け取ると、秀作が法資のグラスに注ぐ。それを終えると次は泰菜と法資の父親にもグラスを与えてビールを注ぎ込んだ。


「とりあえず、仲良くな。夫婦仲良けりゃ、だいたいそれだけで大概のことはどうにでもなるから」


そういって秀作は目尻に皺を寄せる。


「それにしても法資くんは相変わらずの男前だな。おまえいい男を捕まえられてよかったな」


不器用な父の照れ隠しの言葉だった。それでも父が法資とのことを父なりに祝福してくれてるのが伝わってきて泰菜もなんだか照れくさくなっていると、隣にいた法資がもう一度秀作に向かって頭を下げた。




そうこうしているうちに産院に迎えに行っていた英達が、妻の晶と息子の英人を連れて帰ってきた。





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