三十路で初恋、仕切り直します。

出産時いきみすぎて恥骨を骨折したのと産後に重度の貧血に陥ったのが原因で、他の産婦より入院が長引いていた晶は、本当なら退院してすぐに実家へ帰る予定だった。

けれど法資が桃庵に来ていると知って、出国前に甥っ子をひと目見てもらおうと思ったらしく、こちらに立ち寄ってくれたのだった。


晶は桃庵に泰菜たち親子がいたことと、泰菜が法資の婚約者として紹介されたことにすこしびっくりしていたけれど、「ちっちゃい頃から真面目でやさしかった相原さん家の泰菜ちゃんが、わたしの義理の妹になってくれるなんて感激だわ」と言って驚き以上に嬉しそうな顔をしてくれた。


そして晶はまだ新生児の英人を泰菜に抱かせてくれた。


そのちいさな体に宿ったふくふくとした体温に、抱いているだけで胸が熱くなった。法資と血の繋がりを持つ赤ん坊だと思うと、理屈では説明できない感動が沸いてきてただひたすらに腕の中の英人がいとおしく思えた。



晶は「俺はいいから」と遠慮半分気後れ半分に断る法資にも英人抱かせ、恐々と抱きながらも甥っ子の顔をやさしいまなざしで見る法資の姿に満足そうに目を細めていた。

その姿は、こっそり携帯で撮影しておいた。





そうして思いがけずに家族と再会できた桃庵を後にし、二人は電車に乗って成田空港に向かった。





搭乗手続きを済ませ、今二人が座っているのは出発ロビーにあるベンチだ。

正面にある大きな案内板の国際便の運行情報がせわしなく切り替わる。もうじき、法資はこのロビーの先にある保安検査に向かわなければならない時間だった。





< 113 / 153 >

この作品をシェア

pagetop