三十路で初恋、仕切り直します。


(2)負けるひと



そもそもの発端は年末年始にまでさかのぼる。




再会したばかりだった泰菜をどうにか自分のものにして、すぐの再会を約束してシンガポールへ旅立ったあの日から、実はまだ一度も日本へ帰れていない。


必ず会いに行くと約束していた年末は企画室のプロジェクトの進捗が思わしくなかったため、室員総出で休日返上になったため帰国がかなわなかったのだ。泰菜は『仕事なら仕方ないよね』と聞き分けのいいことを言いつつ、寂しがってることを悟らせまいとするように、必死で平気な顔を取り繕っていた。


今度代休をまとめて取ったときに帰国すると約束し、それを自分も楽しみにしているのだが、年末から一ヶ月たった今も目処が立たず、ついには泰菜の方が『わたしがそっちに会いに行ってもいい?』と言ってきた。



土日の前後でたくさん余っている有給を使えばシンガポールに行って帰ってくるのはそんなに無理なことではないと、静岡の家からだと成田よりも近い中部空港からシンガポールへ直行する便があることも調べあげたうえで泰菜は訪問を持ちかけてきた。



ひどく魅惑的な話ではあったけれど、その話はすぐに断った。



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