三十路で初恋、仕切り直します。
『……ごめん、仕事帰りとか?今忙しかった……?』
再びウェブカメラの前にくると、モニターの中の泰菜が案ずるような目で訊いてくる。
「いや。ちょっと買い物に行ってただけだ」
『そっか。じゃあ今日はお休み?』
「もしお呼び出しがあったらすぐに休出だけどな。久し振りに納豆食いたくなって、こっちにある伊勢丹で買ってきたとこ」
『伊勢丹があるんだ。でもデパートに納豆なんて売ってるの?』
日系のデパートではよく置いてあるものだ。日本食を専門に扱うスーパーなどもあるから、価格が日本で買うときの倍以上はするという難点はあるものの、シンガポールで日本の食材を手に入れるのはそれほど難しいことではない。
そんな他愛もない話がひと段落するとしばしの沈黙の後で、泰菜が『法資』と何か遠慮がちに呼びかけてきた。
「何だ?」
『その。……ごめんなさい』
どちらかというと自分から謝罪の言葉を口にしなければならないだろうと思っていたので、泰菜の方から折れてきたことに内心驚く。
『……一昨日は、あんな言い方しちゃってごめん……』
そういって泰菜はここ数日の冷戦状態を謝罪してくる。