三十路で初恋、仕切り直します。

ごく一部、本社勤務の新入社員の中でも選りすぐりの優秀な人材が、入社間もない時期から海外支部に派遣されていくらしい。

夫と一緒に海外赴任することに憧れを抱く女子は多いと聞くから、そんなエリート街道まっしぐらな男を捕まえられたら「勝ち組」確定なのだろう。


「たしかに本社のエリート捕まえられたら自慢になるのかもね」


会えばトミタの男を紹介しろとばかりせっついてくる合コン好きなともだちが求めているのも、そういうレベルのブランド男なのだろう。けれど。


「……でもさ、他人に自慢出来たって、自分が幸せじゃなきゃなんの意味もないじゃない。わたしはそんな肩書きより、恋人とか奥さんとかをすごく大事にしてくれる男の人の方が自慢になると思うな。そりゃ現実的なこと言えば、出来たらちょっとでいいからわたしより背が高くて、ちょっとでいいからわたしより年収が多い人のほうがいいなぁとか、それくらいのことは思うけど」


でもお金があっても幸せな夫婦になれるとは限らないことは、泰菜が幼い頃から喧嘩が絶えず、小学校に上がる前に離婚した父と母を見ていればよく分かることだった。


「……彼もさ、同じようなこと言ってくれてたの。お互いに信頼関係があるのがいちばんだよねって。今思えばわたしの話に適当に合わせてただけなんだろうけど」



また不意に、彼の顔が浮かんでしまう。笑顔がとってもやさしげだったのに、本当はとても不実だった人の顔が。



「彼ね、わたしのこと、すごく好きだって言ってくれてたし、大切にしてくれてたのよ?実家に帰る予定のない年末年始とかは自分も帰省しないで出来るだけわたしと一緒にいてくれようとしたし、手料理作るとこっちがびっくりするくらい喜んで食べてすごいねって褒めてくれたし」


ちょっと軽そうだったからこっちも気持ちをセーブして付き合い始めたのに。



「それでうっかり、彼のこと結構本気で好きになっちゃって」





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