君想歌
扉の音に程なくし店の奥から
見慣れた顔が覗いた。

「廉さん、
お久しぶりです」

「瀬戸ちゃんかいな」

どこにでも居そうな
杖をもったお爺さん。

よっこらしょ、と座布団が
敷かれた床に廉が腰を下ろすと
和泉は腰に差した刀を手渡した。

これは並の刀鍛冶には
任せられない。

熟練の鍛冶屋で無ければ。



和泉の刀は沖田たちが持って
いるような物とは違い特別に
打たせた代物。

剣身は極限まで薄くされ、
尚且つ強度をも保つ。

光を照らせばうっすらと蒼に
輝く剣身には椿が彫られている。


「また随分、無茶な使い方を
しおったのぉ……。
だがまだまだ大丈夫じゃ。
ワシがおる限りは、
この刀は折れんぞ」

わっはっはと声に出し笑う廉は
座った和泉を見ると歯を見せた。

「うぬ。
夕方、取りに来なされ。
買ったときと同じくらいに
仕上げておくわい。
それがあるなら心配なかろう」


番傘を指さし廉は口角をあげた。

この番傘。
柄の部分を取り払えば
刀が隠されていたり。

もちろん、廉が細工をした。


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