君想歌
目を見開いて吉田の右手を
凝視している和泉を冷たく睨む。

「捨てろ、手放せ。
そうでも言う気なの?」


険を滲ませる物言いに
和泉は口をつぐむ。


「君が俺から離れたとしても。
俺は和泉の手を必ず掴むよ。
それが君の本心だから」


身動き一つ出来ない身体は
吉田の腕に再度収まる。


「大丈夫だから、安心して。
志は俺にだってある。
けど好いた女子は
自分が死ぬ時までは……」


――絶対一人にしないから


吉田の着物の袖を握りしめると
胸元に顔を埋めた。


「ほんっと。
泣き虫だね」


涙で湿る着物には気を止めずに
吉田は泣き止むまで、
ずっと頭を撫で続けていた。



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