君想歌
あの日、吉田と別れてから。

一度も顔を会わせて居ない。

町ですれ違いもしない。

そのせいで心中は決して
穏やかとは言い難い。


足を揺らしながら和泉は
空を仰ぐ。

「長州の大物が、京に居るよ」

和泉が呟いた言葉に土方は
噛みつく。


「てめ……。何で言わなかった!」

「だっていつも総司が最初に
斬っちゃうじゃん。
今回は自分が片をつけるから」


それだけ許してよ、と和泉は
膝を抱える。

そんな和泉を横目に土方は
立ち上がる。


「ちゃんと相談しろ。
それから少しでも良いから
分かった情報は俺に知らせろ」


それだけ言い残すと部屋に
入っていく。

同時に和泉の後ろに山崎が
音もなく天井裏から飛び降り
声を掛けた。


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