君想歌
和泉の言葉に明里は
何とも言えないような顔をした。


かと思うと、わっと顔を被って
泣き出した。


「あ…明里?」

「ごめん…ごめんな。
うち何も出来へんかった」


戸惑った顔をしていた和泉は
続けられた言葉に漸く理解した。


山南から明里に話しは
通っていたのだろう。


和泉が困っていた時に
何も出来なかった自分を
明里は責めている。


「気にしないで。
本当なら…あの人と最期まで、
共にありたかった。
けど稔麿は望んでないから」


和泉に生きてと稔麿が望むなら。

どんな辛いことだって
乗り越えてやろう。


「だけど。寂しいよ。やっぱり」

隣にあった温もりが消えるのは
和泉にとって一番怖い事だった。


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