ノーチェ
――太陽が沈んでゆく。
それと同時に、空は暗闇に月明りを灯して夜を呼び寄せた。
暗くなった部屋の中
月明りだけを頼りに紙切れを見つめる。
帰り際、啓介くんはあたしに言った。
『菜月も俺も、莉伊ちゃんの幸せを願ってる。』
ぶつかる視線に、啓介くんは笑って
『薫と、幸せになる事をね。』
そう付け加えて。
もう何度も見つめた紙切れに、あたしの心は揺れていた。
まるで天秤に掛けられたように、何度もあの日の出来事を思い出す。
『触んな!!』
払われた手。
あたしは自分の左手に視線を落とす。
…薫に、会うのが怖い。
もう一度、この手を振り払われたら
あたしは完全に光を失ってしまう気がして。
だけど――――…