Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



「熱中症の子が出なきゃいいけどね…」


 みのりは澄子の隣で、2階の通路からステージを見下ろしながら言った。


「ホント、サウナみたいに暑いよね。」


 澄子も汗を拭きながら、つぶやいた。


「それに、3年生はステージ発表もクラス展示もないから、ただのお客さんだしね……。」


 澄子に言われて、みのりは階下に広がる生徒たちの海の一隅を見下ろした。一番お行儀の悪いのが、3年生の私立文系クラスだ。


「模擬店もダメになったし、あの子たちも張り合いがないのよねー。しかも、この暑さだから……。」

「ふーん……。」


 みのりは唸るようなため息をついた。


 去年までは、3年生はかき氷やらたこ焼きやらの模擬店を出せていたのだが、食中毒の心配と節電のために、昨年から中止になっていた。

 3年生にとって、もちろん勉強は大事だとは思うが、在学中3度しか経験できない文化祭を、こんなお客さん状態で参加させることに何の意味があるのだろう。

 求められてるのは学力だけじゃないはずなのに。その学力以外の力は、こんな場面で模擬店を出したりといった活動をすることで、培われるものだ。
 〝全人的な教育〟を言葉では謳っていても、実情はこれだ……と、みのりはいささか呆れてしまう。


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