Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 振りほどこうにも恐怖で身体がこわばっているし、顎が震えて声も出ない。真っ暗な空間の中で、心臓の鼓動だけが、耳のすぐ側にあるかのように聞こえる。
 緊張のあまり息が苦しくなってきて、 呼吸が荒く激しくなってくる。

 みのりは目を瞑って、無意識に胸の前で拳を握り、身をすくめた。その拍子に身体を捕捉している腕を、みのり自身の腕で押さえつけてしまった。

 次の瞬間、みのりの顔に血が上った。

 みのりを捕らえてる片方の手が、みのりの左の胸の膨らみを掴んでいる……!?


――誰なの!?どうして放してくれないの!?


 誰なのかは判らないが、この腕の力強さは、男子に違いない。

 身体がガタガタ震えだし、動揺したみのりの目から、とうとう涙がこぼれ落ちた。


「あれ、仲松先生は?」

「え!?私は知らないよ?」

「うそ!置いてきちゃった!?」

「仲松先生ー!」


 そんなやりとりが、出口の方から聞こえる。


 すると、みのりの身体に巻き付いていた腕は力を緩め、みのりは解放された。
 振り返っても、黒い服を着ていた上に迷路の向こうに隠れたのだろう、そこには暗闇があるばかりで人の気配もなかった。


「ああ!仲松先生いた!」

「置いてっちゃって、ごめんね。先生。」




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