Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 みのりは優しい眼差しを、用語集から遼太郎へと移した。遼太郎はその眼差しを受け取って、もう一度手の中にある用語集に目を移す。


 何度みのりはこの用語集をめくったのだろう…。指が当たるところが、うっすらと窪んでいる。


「本当は、新品をあげたいんだけど。まぁ、私も合格できたから、験担ぎでね!」


 今、いちばんしんどい思いをしている遼太郎に、みのりはかつての自分を投影させていた。

 頑張りすぎている遼太郎を、『頑張れ』という言葉ではなく、どうやって励ますことができるのか。それを考えていたとき、今朝の真剣な眼差しを見て思い付いたのだった。


「ありがとうございます。大事にします。」


 遼太郎が両手でしっかり持ってそう言うと、みのりは、


「なんだか、押し付けちゃったみたいね。」


と、笑った。


「そんなことないです。」


 遼太郎は首を横に振る。


「…なんか、先生の分身がいつも一緒にいるみたいで、心強いです。」


 そう言った瞬間、この用語集は遼太郎の宝物になった。
 『分身』と言われて、みのりはそれを遼太郎に持ってもらえることが、いっそう嬉しくなった。


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