Rhapsody in Love 〜約束の場所〜



 みのりの実際の腕は細いけれど、遼太郎を身体ごとスッと一段高いところへ力強く引き上げてくれるような感覚で、心を悩みから抜け出させてくれる。

 そうすると、見晴らしの良いところで、気持ちや考えを整理することができるようになる。


「なんだ、じゃあ、私がごちゃごちゃ言わなくても、既に狩野くんは分かってたのね。ラガーマンだから。」


 嫌味を言っているわけではないのは、みのりの優しい表情を見れば判る。


「分かってても忘れてるし、先生に言われると自信が付きます。」


 遼太郎もみのりを気遣って、優しい表情を返した。
 その遼太郎の優しい目を見て、みのりは安心するとともに、また鳩尾の辺りがキュッと絞られるのを感じた。


「ね、そうだ。私、ずっと訊きたかったんだけど、『ノーコン』ってどういう意味?」


 不意にみのりが思い付いて、話を変えた。


「ノーコン?」


 遼太郎も首を傾げる。


「試合の時に、周りの応援の人がプレーを見ながら、よく言ってるの。」


 遼太郎は下唇を噛んで、視線を泳がせる。考えるときの遼太郎のいつもの癖だ。


「…あ、先生、それもしかして…、『ノックオン』のこと?」

「ノックオン?」



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