Rhapsody in Love 〜約束の場所〜


 この日、試合に集中していた遼太郎に、みのりはまるで意識されていなかった。それを当然のことだと納得していたはずなのに、こんな遼太郎の些細な行為に、みのりの心は喜びで跳ね上がった。

 みのりも遼太郎の視線を捉えると、遼太郎はそれを確認して満ち足りたように微笑んだ。
 2、3歩そのまま微笑んだ顔で後ずさりし、ヘッドキャップを被ると、踵を返してポジションに着いた。


 いつものみのりならば微笑み返すのに、今日は遼太郎の笑顔が心に沁み渡って、その感覚を処理するのに精いっぱいだった。

 息苦しくなって、みのりは思わず胸に両手を置いた。
 胸は切なく痺れて、いつの間にか胸の鼓動が激しくなっている。


――私……、どうしよう……。


 その〝戸惑い〟は、それは自分の本心に気が付きたくないからだった。
 数日前心に過り、心の奥底にフタをした想いを、認めたくないからだった。



 後半が始まり、試合の内容が前半とは少し違ってきた。
 もちろん、力量で勝る都留山が優勢なのは変わりがない。しかし、何かが吹っ切れたように、芳野の選手たちの動きがとても良くなってきた。すぐにタックルされ、ブレイクダウンに持ち込まれてしまうのだが、前半のような防戦一方ではない。


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