Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
それとも、3年部の澄子は日々の仕事に忙殺されていて、恋愛どころではなかったのかもしれない。
しかし、年末のこの時期になると、推薦入試もほぼ終わり少し息が抜ける。センター試験が始まるまでの、嵐の前の静けさといったところだ。
「…いや、久我先生とは、いっそのこと二人きりで…。デートにでも誘ったら?」
みのりは自分の恋愛に抱けない望みを、澄子のそれに託すような気持ちだった。
「デートって…。それって普通、女の方から誘うものなの?」
真っ赤な顔で、澄子は口を押えながらみのりに訊いてくる。澄子からしてみれば、みのりは恋愛の達人のような存在だった。
そう言われて、みのりは自分から男性をデートに誘ったことがないことに気が付いた。
今回の江口のことも然り、しつこく誘われてしぶしぶ応じるデートもあったし、石原との心待ちにするような逢瀬も、いつも自分は受け身の立場だった。
恋愛の経験は少なからずあったが、どれも自分から能動的だったことは一度もない。
だけど、それは若かった今までのこと。みのりも一つ年下の澄子も、これからは自分から積極的にアプローチしなければ、恋愛という過程を経ての結婚など見込めないだろう。
ましてや、相手が久我の場合、絶対に向こうから誘ってくれるということなどありえない。