狂妄のアイリス
「おじさん……もうすぐ、命日だよ」


 ハチミツミルクの湯気が天井に昇って行くの目で追う。

 その湯気の向こうで、おじさんが私を見ていた。

 湯気は、天井に届く前に透明になって消えてしまう。

 私はそれを見送ると、マグカップを両手で包みこむ。

 白い水面から、新しい蒸気が上がってる。


「――墓の場所、わかるか?」

「うん、知ってる」


 マグカップを見つめたまま答える。

 霊園の名前は記憶に刻まれていた。


「じゃあ、週末に行こうか。花を買って、ご両親に元気な姿見せてやろう」


 おじさんの手が伸びてきて、くしゃりと髪を乱した。

 私はおじさんの顔が見れなかった。

 泣き顔を見られたくない。

 週末はすぐだった。

 それまではいつも通り家に引きこもって過ごした。

 風邪で弱っていた体力もすっかり元通り。

 元から、たいした体力もなかったけど。
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