略奪ウエディング
「ウォッホン。まあ、あれだ。君はよくやってくれた。これからは片桐をきちんとそばでサポートするように。こいつが怒るとどうも俺はやりにくくてな。欲求不満にでもなられたなら大変だ。…そっちの面倒もきちんとみるように」
アカマメが言うと、周りの部下たちが騒ぎ出した。
「やだ、下ネタ~?信じられない」
「部長セクハラですよ」
「旦那の前で何言ってるんすか」
案の定、アカマメは真っ赤になって怒り出す。
「うるさい!冗談だろうが!黙れ黙れ!」
皆はどっと笑い出した。
「早瀬さん、お疲れ様」
俺が声をかけると梨乃は驚いて俺を見上げた。
涙のきらめきが光って、その目は悩ましく輝いていた。
…俺の好きな、…見上げる瞳。それを黙って見つめ返す。
どうして放っておいたりしたのだろう。以前に牧野に言われて自覚したはずなのに。
嫉妬に支配されて、またもや大切なものを見失いかけている。恋は複雑なようでいて、とても簡単だ。
嫉妬も怒りも、相手を独占したいがためのエゴに過ぎない。
東条と二人で彼女が何を話したかが重要なのではない。俺がそれを受け止めて、彼女の手をしっかりと繋いで離さなければ良かったのだ。
「課長…今まで…ありがとうございました…。
お元気で。忘れません…」
彼女の言葉に、胸がドクッと揺れる。梨乃を離さないとたった今決意した気持ちが動揺によって揺らぐ。
まるで別れを宣告されたような気持ちになった。
「ちょっと~、イチャイチャは家でやってよねー」
黙って見つめ合う俺たちを見て矢崎がちゃちゃを入れる。
みんなは再び笑い出したが、俺は笑えなかった。
「課長、今日はもう早瀬と上がったらいかがですか。資料は俺がやっときますよ」
先週から二課に異動になった牧野が俺の手からファイルを取って言う。
「…いや、俺は、いい。今日は…やり残しが…たくさんあるから」
俺の言葉に全員がしんと静まり返った。