略奪ウエディング
強気で自信家の別名をもつ俺も…恋してしまえばただの男だ。
愛する女性の次なる言葉に怯え、避け、逃げたくなる。
「そう…ですよ。課長は忙しいですから。じゃあ私は帰り…ま…」
梨乃の目から涙が零れ落ちる。
皆はそんな俺たちを見比べて唖然としていた。
「ありが…とう…ござ…」
そこまで言って、梨乃は廊下に飛び出した。
「梨乃!」
「早瀬!」
皆が呼んでも彼女は振り返らずに走っていく。
「追えよ!」
牧野が俺に言う。
俺は拳をギュッと握り締めながら言った。
「…じゃあ皆、やり残した仕事はきちんと上げろよ。定時の者は気を付けて帰ってくれ」
言いながらデスクに戻ろうとする俺の足を止めるように牧野が俺の前に立ちはだかった。
「課長!早瀬を追わなくていいのか!?」
「…牧野。さっきのファイルは俺が上げるから。返してくれ」
差し出した俺の手をかすめて、ファイルが床に投げ落とされる。
「あんた!まだそんなことをしているのか!?早瀬を苦しめるのなら、俺にくれよ!俺がどんな思いでいると思っているんだ!」
そう言い捨てて牧野は廊下に飛び出した。
「早瀬!!」
彼は猛スピードで梨乃の後を追って行く。