略奪ウエディング

悲しい誤解



「悠馬って…そんな人だった…?」

茜が髪をかき上げながら煙草に火を点け言う。

「俺も…自分で驚いてる」

俺はそんな茜を見ながら微かに笑った。

――繁華街の中にある一軒のバーのカウンターに茜と二人並んで座った。
梨乃のために今の俺が出来ることを考えたとき、茜のことを思い浮かべた。

彼女から金沢での滞在期間が延びたことをメールで聞いていた俺は迷わず彼女に電話をかけた。
彼女の宿泊しているホテルに呼び出され向かった俺だが、どうしても部屋の中に入って話すことを拒んだ。

「話をするだけよ」と茜は外に出ることを嫌がったが、俺の考えは変わらなかった。
結果、彼女とここに落ち着いたのだ。

「面倒くさい男だったのね。私といたときは気付かなかったわ」

彼女の言葉にまた、新しい発見をする。

「面倒くさい男になったのは…最近のことだよ」

彼女は俺をギョッとした顔で見る。

「…本当に。失礼なところは変わってないけれど」

「失礼?俺が…?どんな」

「私に対してはどうでもよかったという風に聞こえるわ」

「そんなつもりじゃなかったんだけど。悪い」

「最悪」

茜は煙草の煙を吐き出してから俺を軽く睨む。

「…本当はさっき…悠馬を部屋に入れて襲う予定だったんだけど」

「え」

「あなたったら、頑なに嫌がるんだもの。計画が台無しだわ」

俺は驚いて彼女を見返した。

「いやだ。そんなに警戒しないでよ。さすがにこんなところでは手も足も出せないわよ」

茜はそう言って陽気にケラケラと笑った。

どこまでが本気なのか。昔から読めない雰囲気をまとった女だった。今も変わらない。



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