略奪ウエディング
茜から見たら以前の俺から比べて、今の俺が面倒くさく見えてもおかしくはない。
以前は俺が、女性をそんな風に扱ってきた。
「部屋に入っても何もしなければやましくなんかないのに」
「梨乃に…誤解されたくないんだ。俺が同じ状況で彼女を疑ったばかりだから」
「…え?もしかして嫉妬したの?」
痛いところを突かれて黙り込む。
「…やだ。らしくない。相手はこの前のあの子でしょ?あの子みたいな女は嫉妬するまでもないじゃない。あなたしか見えていないわよ」
茜に言われて彼女の顔を見た。
「どうしてそう思う?分からないよ」
俺が言うと彼女は鼻で笑った。
「バカね。本気で分からないの?真面目そうで、真っ直ぐで。それにあの目。あなたが好きで堪らないことくらい一瞬で分かったわよ。悠馬を見る目が、…蕩けるようだった」
「本当に?…そう思った?」
「…呆れた。百戦錬磨のくせに」
茜は馬鹿にしたように言うと、グラスの酒をクイッと飲んだ。
「もう、やめた。バカバカしい。期待するのはやめる。どうやらあなたはもう、私と遊ぶ余裕すらないみたいね。あの可愛子ちゃんにやられちゃってるわ。…つまんない」
「茜」
茜はそう言って寂しそうに笑いながら俺から目を逸らしグラスをテーブルに置いた。
どこまで本気か分からないと思っていた茜の胸の内が今の瞬間に垣間見えた気がした。
付き合っていた当時、俺は本気で彼女を見ようとはしなかった。いつでも自分や、仕事が優先で、時間の空いた日だけ彼女を抱いた。そんな扱いをしていたことを心から申し訳なく思った。
「俺、…梨乃に会って好きになってから…今までしてきたことは恋愛ではなかったと気付いたんだ。
相手の気持ちも考えずに、自分勝手だった。…君に対しても…」
「やめて。終わったことを言うのは。私をバカにしないで。私もあなただけだった訳じゃない。あなたはせいぜいあの子の子守に頑張ればいいわ」
茜の顔から笑みが消えた。
今の言葉が彼女の最後の強がりだということには気付かないふりをする。
そんな茜を見て、梨乃の気持ちをくんであげられなかった自分を茜の言う通りバカだと思った。
もう同じことを繰り返すつもりはない。梨乃に対してだけは。