略奪ウエディング
「梨乃は…俺なんかじゃ子守しきれない女だよ。真面目で可愛いだけじゃない。どうしたらいいのか、いつも俺に考えさせる」
彼女を思い浮かべ笑いながら言う。
泣き虫で、意地っ張りで。…妖艶で、悩ましい。
梨乃が見せる色んな顔に、俺は振り回されていつしか夢中になっている。
「…もう。分かったわよ。もうあなたにちょっかいは出さないから。…で?話は?」
「あ、うん。実は…」
ようやく茜に本題を話す。
茜は快く引き受けてくれた。
そんな彼女の前にもいつか現れるだろう。俺のように、茜に心を奪われる男が。
それは俺ではなかったけれど、いつかきっと。
――「じゃあまた来週。期待してて」
「うん。楽しみにしてるよ。ありがとう」
茜とバーのあったビルの前で別れた。
彼女の姿が見えなくなるまで見送ってから、携帯を取り出した。
梨乃の番号に電話をかけて彼女の声がこの耳に聞こえるのを待つ。
早く…今すぐに君に会いたい。
トゥルルル、トゥルルル。
だが、待っても呼び出し音だけが耳に何度も響く。
…その回数が増えるたびに段々と不安になっていく。
どうして……出ないんだ。
俺は電話を切ると、今来た道を振り返った。歩く向きを逆にし、早足になる。
そのまま急いでタクシーを拾うとそれに乗り込み、運転手に梨乃の家のある街を告げた。