略奪ウエディング
車の中で考える。
電話に出ないことが、彼女の考えていることの表れのように思えた。
彼女はこのまま俺に会わないつもりでいるのかも知れない。
俺は君にまだ、何も伝えてはいない。
言いたいことの半分も君に伝わらないまま、会えなくなるなんて嫌だ。このままでは終われない。
梨乃の家のそばで車は止まった。
走って彼女の家に行き、玄関のチャイムを押す。
『はい』
インタホンから若い女性の声が聞こえた。
「片桐です」
『あ、お兄さん?お姉ちゃんならまだ帰ってないよ~。何か遅くなるって電話あったきり』
その声は彼女のものではなく妹の梨花さんのものだった。
「え…。あ、そうですか」
『入って待ってればー?もう帰って来ると思うわよ』
「いや、いいです。ありがとう」
それだけ告げて、駆け出して戻った。
どこへ行ったんだ…?
焦りながらバス停に行く。
辺りを見渡すが、人影はない。
まさか俺のマンションに…?そんな事を思う自分が都合よく思えるがその可能性がないわけじゃない。
再びタクシーを拾おうとした、そのとき。
向かい側から一組のカップルが歩いてきた。
「…あ…」
女性の方を見て、息が止まりそうになった。
梨乃だ。
彼女を認識した直後、その隣にいる男が大きな声で言った。
「課長!?こんなとこで何してんだよ!」
…牧野?
何故二人が。