略奪ウエディング
「もう!いい加減にしてくれよ!あんたが何を考えてるのかさっぱり分からないよ!」
彼の言葉に眉をしかめて首をかしげた。
俺も君が何を言っているのかさっぱり分からないのだが…。
梨乃は退社の際にもらった花束を抱きしめるように抱え、そんな俺をじっと見ていた。
三人の沈黙が続く。
俺は二人を見ながら何から話したらよいか考えていた。
「あの…」
俺が話し始めた、と同時に牧野も話した。
「あのさー…、ほんと、…しっかりしてくれよ。俺さ、早瀬をあんたから取ってやろうって本気でさっき思ったんだ。でも…出来ないんだよ。…課長じゃないと…こいつは笑わないんだ」
「牧野…?」
梨乃は俯いて黙り込んでいる。
牧野は頭をくしゃくしゃと手でこすり、「あー、もう。じれったい」と呟いている。
その後で梨乃の方を向いて言った。
「ほら。早瀬。言いな?全部、お前からさ」
梨乃の肩をぽんと叩く。
梨乃は牧野に言われて俺を見つめた。
…何を言われてしまうのか、少し身構えた。
だがもう、逃げはしない。「別れる」と言われれば「嫌だ」と言えばいい。
気持ちを思うままに伝えればいい。
俺は切ない目で、彼女を見つめ返した。
その口から語られる言葉を受け止める覚悟はできている。
もし、…もう、…俺に気持ちがないと言われれば…もう一度振り向かせてみせる。
君をこの腕に再び抱くまで何度でも、君が好きだと伝えよう。