略奪ウエディング
だが、…今の梨乃が…あのときの東条と同じ…?
俺は意味が分からず思わず口を挟もうとした。
「待って…梨乃…」
そんな俺に話をさせまいとでも言うように彼女の話は淡々と続く。
「先ほど、茜さんと…ホテルから出てくるのを……見ました。それが…課長の、私の気持ちに対する答えなら…私はもう、いいです。東条さんの気持ちが、分かりました。私も…課長が幸せに…なるのなら」
俺は言葉も出ないままで、梨乃を見つめていた。
俺と…茜?
疑って…いるのか?本気で?
まさかそんなことになっているとは思いもしなかった。
彼女と会ったのは、全て君のために…。
「課長。何とか言ってやってよ。あんたの言い方一つでは、俺がそばにいないといけなくなるから」
牧野も梨乃に加勢するように俺に言う。
待ってくれ。何でそんな。
俺は深く深呼吸すると、二人を交互に見た。
「…まさか、こんな話をされるなんて…思ってはいなかったよ」
俺の声に、梨乃はそっと顔を上げた。
「病院のことは…もう、いいんだ。俺が…勝手に嫉妬して、君を疑うことでその気持ちを隠していただけなんだ」
「課…長…?」
「俺は…ずっと東条の存在に胸騒ぎを覚えていた。…君を傷付けたひどい奴だと思いながらも…何故その気持ちが消えないのか…分からなかった。
今、梨乃の話を聞いて…答えが分かったよ。きっと…東条の気持ちが…どこか伝わってきていたのかもね」